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水戸地方裁判所 平成8年(行ウ)4号 判決 1999年8月31日

原告

櫻井喜代志

右訴訟代理人弁護士

小松哲

小松勉

被告

土浦税務署長 三澤力男

右指定代理人

齋藤紀子

須藤哲右

栗原久

飯田信一

青桝浩

藤沼正彦

今泉憲三

齋藤隆敏

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成四年一〇月七日付けでした原告の平成二年分所得税の更正並びに過少申告加算税及び重加算税賦課決定のうち、分離短期譲渡所得金額二九二六万九〇〇〇円、納付すべき税額一四二五万六一〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税賦課決定を取り消す。

二  被告が平成四年一〇月七日付けでした原告の平成三年分所得税の更正及び重加算税賦課決定のうち、分離短期譲渡所得金額二三二万八〇〇〇円、納付すべき税額九五万七五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、まず第一に、原告が、平成二年分の所得税につき、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件二年分土地」という。)を有限会社有馬漁具(以下「有馬漁具」という。)に対し譲渡した等として確定申告(以下「本件二年分確定申告」という。)をしたところ、被告から、右譲渡に偽りがある等として、平成二年分の所得税の更正並びに過少申告加算税及び重加算税賦課決定(以下、これらを併せて「本件二年分各処分」という。)を受けたために、本件二年分各処分(裁決によって一部取消し後のもの)の取消しを求めた事案であり、第二に、原告が、平成三年分の所得税につき、別紙物件目録二記載の土地(以下「本件三年分土地」という。)を有限会社つくば住建(以下「つくば住建」という。)に対し譲渡したとして確定申告(以下「本件三年分確定申告」という。)をしたところ、被告から、右譲渡に偽りがあるとして、平成三年分の所得税の更正及び重加算税賦課決定(以下、これらを併せて「本件三年分各処分」という。)を受けたため、本件三年分各処分の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実(段落末のかっこ内に証拠等を掲記する。以下同じ。)(以下これらを「争いのない事実等」と表記する。)

1  松本機械が本件二年分土地を取得するに至る経緯

(一) 原告は、本件二年分土地を取得するにあたり、次のとおり、売買契約を締結し、その旨の売買契約書を作成した(甲第二ないし第五号証の各一)。

(1) 別紙物件目録一記載一及び五の土地

契約締結日 平成元年三月一〇日

売主 飯泉英二

買主 原告

売買代金 四八〇〇万円

(2) 同目録記載二ないし四の土地

契約締結日 平成元年三月一〇日

売主 飯泉良則

買主 原告

売買代金 三〇五〇万円

(3) 同目録記載六の土地

契約締結日 平成元年一一月二一日

売主 片見春吉

買主 原告

売買代金 二一七万八〇〇〇円

(4) 同目録記載七の土地

契約締結日 平成元年一一月一〇日

売主 塚田茂

買主 原告

売買代金 三〇〇万円

(二) 原告と松本機械株式会社(以下「松本機械」という。)は、平成二年六月八日、学園桜井ホテルにおいて、東和商事株式会社(以下「東和商事」という。)の代表取締役である服部嗣生(以下「服部」という。)、冨田弘(以下「冨田」という。)、株式会社東洋興業(以下「東洋興業」という。)の代表取締役である大里恒男(以下「大里」という。)、松本機械の代表取締役である松本常義(以下「松本」という。)、松本機械の常務取締役である浜谷悟朗(以下「浜谷」という。)及び株式会社サンエー企画(以下「サンエー企画」という。)の代表取締役である中泉和勇(以下「中泉」という。)立会いのもと、本件二年分土地につき、売主を原告、買主を松本機械、売買代金を三億六八万五〇〇〇円とする内容の売買契約書(以下「本件二年分土地第一契約書」という。)を作成した。

(三) 原告は、その際、松本機械から、手付金として、現金三二〇〇万円、銀行の保証小切手二九〇〇万円、合計六一〇〇万円を受領し、原告名の領収書を発行した。

右保証小切手二九〇〇万円は、つくば銀行学園支店の学園桜井ホテル名義の普通預金口座(口座番号〇五六一五八)で取り立てられ、右口座に平成二年六月一一日に入金された(乙第一八号証の一、二。なお、東陽相互銀行は、つくば銀行の前身である(乙第二八号証、第三〇号証参照)。)。

(四) 原告と松本機械は、本件二年分土地第一契約書作成後、本件二年分土地第一契約書を、売主を有馬漁具、買主を松本機械、売買代金を三億六八万五〇〇〇円とする内容の平成二年六月八日付け売買契約書(乙第一五号証。以下「本件二年分土地第二契約書」という。)に差し替えた。

(五) 本件二年分土地第一契約書を作成した当時、本件二年分土地の不動産登記簿上の所有名義人は、元の所有者である飯泉英二、飯泉良則、片見春吉及び塚田茂(以下、併せて「本件二年分土地旧地主ら」という。)であり、当時の所有者であった原告の名義に移転されていなかった(乙第四二号証の一ないし七)。

(六) 原告は、冨田とともに、平成二年六月八日付けで、松本機械に対し、本件二年分土地の売買に関し、「私桜井喜代志と冨田弘が一切の責任を負うことを約します。」という内容の念書(以下「本件念書」という。)を作成した(乙第二七号証)。

(七) 松本機械と本件二年分土地旧地主らは、平成二年七月一三日、本件二年分土地を松本機械の建設機械置場とするため、筑波郡和原村農業委員会を通じ、茨城県知事に対し、農地法五条の規定による許可申請書を提出した(乙第三九号証)。

本件二年分土地は、平成二年九月二七日、同月一一日変更を原因として、地目を田又は畑から雑種地にする旨の登記がなされた(乙第四二号証の一ないし七)。

松本機械は、本件二年分土地につき、平成二年一〇月一五日、同月一二日売買を原因として、本件二年分土地旧地主らから所有権移転登記を経由した(乙第四二号証の一ないし七)。

2  松本機械が本件三年分土地を取得するに至る経緯

(一) 原告は、本件三年分土地につき、次のとおり、売買契約を締結し、その旨の売買契約書を作成した(甲第九号証、乙第四三号証、第四四号証)。

(1) 別紙物件目録二記載一の土地

契約締結日 平成二年五月二六日

売主 片見章

買主 原告

売買代金 二七二万二〇〇〇円

(2) 同目録記載二の土地

契約締結日 平成三年四月一〇日

売主 飯泉孝明

買主 原告

売買代金 二三八万円

(3) 同目録記載三の土地

契約締結日 平成二年六月一八日

売主 片見春吉

買主 原告

売買代金 七〇万円

(二) 本件三年分土地は、平成三年一二月六日、同年一一月二八日地目変更を原因として、地目を田から雑種地にする旨の登記がなされた(乙第四八号証の一ないし三)。

(三) 原告と松本機械は、平成三年一二月一八日、本件三年分土地につき、売主を原告、買主を松本機械、売買代金を一六七〇万円とする内容の売買契約書(乙第一四号証。以下「本件三年分土地第一契約書」という。)を作成した。

(四) 原告は、本件三年分土地第一契約書作成後、松本機械に対し、本件三年分土地第一契約書を、売主をつくば住建、買主を松本機械、売買代金を一六七〇万円とする内容の平成三年一二月一八日付け売買契約書(乙第三四号証。本件三年分土地第二契約書」という。)に差し替えるよう依頼し、松本機械もこれを了承した。

(五) 松本機械は、本件三年分土地のうち、別紙物件目録二記載一及び三の土地については、平成三年一二月二一日に、同目録記載二の土地については、平成四年一月一三日に、それぞれ平成三年一二月一八日売買を原因として、片見章、飯泉孝明及び片見春吉から所有権移転登記を経由した(乙第四八号証の一ないし三)。

3  本件二年分各処分の経緯は、別表一のとおりである。

(一) 原告は、平成二年分の所得税につき、本件二年分土地を平成二年三月一〇日に有馬漁具へ一億四六〇四万七〇〇〇円で譲渡し、右譲渡代金から右譲渡のための取得費八六〇七万八〇〇〇円及び譲渡費用三四七〇万円(東和商事に対する仲介手数料四五〇万円、有限会社学園桜井ホテル(以下、建物だけでなく法人も「学園桜井ホテル」という。)からの借入金にかかる支払利息五六〇万円、つくば住建に対する造成費用二四五〇万円也一〇万円の合計額)を控除した二五二六万九〇〇〇円を分離短期譲渡所得の金額と算定し、納付すべき税額を一二〇五万六一〇〇円として、本件二年分確定申告をした(乙第一号証の一ないし六)。

(二) これに対し、被告は、原告は本件二年分土地を松本機械へ三億六八万五〇〇〇円で譲渡したと認められること、学園桜井ホテルからの借入金の内容が不明でありその支払利息額を認めることはできないことを理由として、譲渡代金三億六八万五〇〇〇円から取得費八六〇七万八〇〇〇円及び譲渡費用二九一〇万円を控除した一億八五五〇万七〇〇〇円を分離短期譲渡所得の金額と算定し、納付すべき税額を一億一八万七〇〇〇円とする旨の更正処分を行い、過少申告加算税を三〇万八〇〇〇円、重加算税を二九七六万七五〇〇円とする旨の賦課決定処分を行った(乙第三、第五号証)。

(三) 原告は、平成四年一一月三〇日付けで本件二年分各処分に対し異議申立てをしたが、被告は、平成五年六月三〇日付けで原告の右異議申立てを棄却した。

(四) 原告は、これを不服として、平成五年七月二九日、国税不服審判所長に対して審査請求をした。

国税不服審判所長は、平成八年三月四日、原告の主張する支払利息額のうち、五一万五〇三八円は本件二年分土地の取得費として認められるものとして、分離短期譲渡所得の金額を一億八四九九万一九六二円と認定した上で、納付すべき税額を九九九〇万三二〇〇円、過少申告加算税を二七万九〇〇〇円とし、本件二年分各処分のうち、更正及び過少申告加算税の賦課決定の一部(本税の額二八万三八〇〇円、加算税の額二万九〇〇〇円、合計三一万二八〇〇円)を取り消し、重加算税の賦課決定に対する審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙第五号証)。

(五) そこで、原告は、平成八年五月三〇日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著)。

4  本件三年分各処分の経緯は、別表二のとおりである。

(一) 原告は、平成三年分の所得税につき、本件三年分土地を平成三年八月一〇日につくば住建へ九六九万円で譲渡し、右譲渡代金から右譲渡のための取得費五八〇万二〇〇〇円及び譲渡費用一五六万円(冨田土地建物有限会社に対する仲介手数料六一万円、佐藤産業に対する整地代九五万円の合計額)を控除した二三二万八〇〇〇円を分離短期譲渡所得の金額と算定し、納付すべき税額を九五万七五〇〇円として、本件三年分確定申告をした(乙第二号証の一ないし三)。

(二) これに対し、被告は、原告は本件三年分土地を松本機械へ一六七〇万円で譲渡したと認められることを理由として、譲渡代金一六七〇万円から取得費五八〇万二〇〇〇円及び譲渡費用一五六万円を控除した九三三万八〇〇〇円を分離短期譲渡所得の金額と算定し、納付すべき税額を三七六万一五〇〇円とする旨の更正処分及び重加算税を九八万円とする旨の賦課決定処分を行った(乙第四、第五号証)。

(三) 原告は、平成四年一一月三〇日付けで本件二年分各処分に対し異議申立てをしたが、被告は、平成五年六月三〇日付けで原告の右異議申立てを棄却した。

(四) 原告は、これを不服として、平成五年七月二九日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成八年三月四日、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(乙第五号証)。

(五) そこで、原告は、平成八年五月三〇日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著)。

三  争点

1  松本機械に対する本件二年分土地の売主は、原告か有馬漁具か。

2  原告は有限会社つくば住建に対し本件二年分土地の造成費用として二四五〇万円を支払ったか。

3  原告は学園桜井ホテルに対し本件二本分土地の購入資金の借入利息を支払ったか。

4  松本機械に対する本件二本分土地の売主は、原告か有限会社つくば住建か。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  原告の本件二年分土地売買に対する関与について

(一) 争いのない事実等及び証拠により認められる事実は、次のとおりである。

(1) 本件二年分土地旧地主らから原告に対する譲渡

冨田は、平成元年ころ、本件二年分土地旧地主らから依頼され、本件二年分土地の譲渡先を一坪当たり一〇万円から一一万円の価額で探しており、原告に対し、その旨相談をした。そこで、原告は、自分自身が本件二年分土地を買い受けようと考え、本件二年分土地旧地主らとの間で売買契約を締結することとした(乙第一五号証の一(冨田陳述書)、証人冨田の証言、原告本人の供述)。

原告は、本件二年分土地につき、争いのない事実等1(一)のとおり本件二年分土地旧地主らとの間で売買契約を締結し、売買契約書を作成した。

(2) 松本機械との契約に至る経緯

松本機械は、平成二年ころ、取引先である日立建機株式会社を介してサンエー企画の中泉に、営業所用地の候補地の選定を依頼していた。中泉は、東洋興業の大里から本件二年分土地の紹介を受けたことから、これを松本機械に紹介することとした(乙第七号証(松本の聴取書)、第一二号証(中泉の聴取書)、第一三号証(浜谷の質問調書))。

中泉は、右紹介にあたり、平成二年五月二二日、松本機械に対し、本件二年分土地の所在、各筆の位置及び一坪当たり三五万円の価額の提示を受けていること等を記載した図面をファクシミリにより送信した(乙第一二号証、第一三号証、第四〇号証)。

松本機械の松本及び浜谷は、平成二年五月二八日、中泉の案内で、本件二年分土地の現地確認をし、その際、大里にも会った。そして、松本及び浜谷は、翌二九日には、原告及び東和商事の服部とも会い、名刺の交換をした。(乙第七号証、第一〇号証の一、二、第一一号証の一、二)。

原告と松本機械は、平成二年六月八日、学園桜井ホテルにおいて、原告、服部、冨田、大里、松本、浜谷、中泉立会いのもと、本件二本分土地につき、売主を原告、買主を松本機械、売買代金を三億六八万五〇〇〇円とする内容の本件二年分土地第一契約書を作成した。そして、松本機械は、同日、原告に対し、手付金六一〇〇万円を支払い、原告名義の領収書を受け取った(争いのない事実等1(二)、(三))。

しかし、松本機械は、平成二年六月八日当時、本件二年分土地の不動産登記簿上の所有名義人が原告ではなかったことに不安を抱いていたことから、原告及び冨田に本件二年分土地の売買に関して一切の責任を負う旨の本件念書を作成してもらい、これを受領した(争いのない事実等1(五)、(六))。

(3) 本件二年分土地第一契約書の差替え

松本機械は、本件二年分土地の売主は原告であると認識しており、有馬漁具についてはその名前を知らなかったところ、原告から、本件二年分土地第一契約書を、売主を有馬漁具とする本件二年分土地第二契約書に差し替えてほしいと依頼された。松本機械は、当初これを拒否していたが、原告から迷惑はかけないといわれたこともあり、原告からの依頼を承諾し、本件二年分土地第一契約書を本件二年分土地第二契約書に差し替えた。(争いのない事実等1(四)、乙第七号証、第一三号証)。

(4) 残代金の決済

松本機械は、平成二年一〇月一二日、学園桜井ホテルにおいて、松本、浜谷、原告、服部、冨田、中泉及び田山司法書士の立会の下、本件二年分土地の売買代金の残金として、現金一億一七〇四万七〇〇〇円及び札幌銀行菊水支店の保証小切手一億二二六三万八〇〇〇円の合計二億三九六八万五〇〇〇円を支払い、原告及び冨田が、これを受領した(乙第七号証、第二一号証ないし第二三号証、原告本人の供述、弁論の全趣旨)。

そして、右保証小切手は、つくば銀行学園支店の有馬漁具名義の普通預金口座(口座番号〇八〇三一三。以下「本件有馬漁具名義口座」という。)で取り立てられ、本件有馬漁具名義口座に平成二年一〇月一七日入金された(乙第二一号証ないし第二三号証)。

(5) 所有権移転登記の経由

松本機械は、本件二年分土地につき、平成二年一〇月一五日、同月一二月売買を原因として、本件二年分土地旧地主らから所有権移転登記を経由した(争いのない事実等1(七))。

(二) 右認定事実のとおり、本件二年分土地の売買に関し、契約の前段階から契約の締結、売買代金の授受に至るまで、一貫して原告が売主として行動しており、かつ、松本機械も原告が売主であると認識していたことからすると、松本機械に対する本件二年分土地の売主は、原告であり、有馬漁具は単に本件二年分土地第二契約書上売主として記載されていたにすぎないものと認められ、原告が有馬漁具の代理人ないし使者であったと認めることもできない。

(三) これに対し、原告は、本件二年分土地を佐々木正博(以下「佐々木」という。)の傀儡である有馬漁具に譲渡したと主張し、その旨の本件二年分土地第二契約書(乙第一号証の三)が存在する。そこで、この点について検討する。

(1) まず、原告は、平成二年六月八日にはすでに松本機械は服部を通じて本件二年分土地の売主が原告ではないことを知っており、本件二年分土地第一契約書は仮契約書にすぎないことを松本機械も了承していた旨主張している。しかしながら、原告の主張に沿った甲第一八号証(原告の陳述書)及び原告本人の供述は、それ自体曖昧かつ矛盾している上、何故松本機械がその後まもなく売主が変更されることを認識した上で、あえてこの時点で原告を売主とする仮契約書を作成したかという必然性が認められないばかりか、これに反する前掲乙第七号証及び第一三号証に照らすと、にわかに採用することはできない。また、甲第一九号証(中泉の陳述書)中には、実際の売主が有馬漁具であることを松本機械に伝えたとの部分があるが、それ自体曖昧である上、乙第一二号証(中泉の聴取書)とも矛盾するものであるから、これも採用することはできない。そうすると、本件二年分土地第一契約書に印紙が貼付されていなかったとのことを考慮に入れても、直ちに右事実を認めることはできないといわざるを得ない。

(2) つぎに、原告は、有馬漁具側の者として、平成二年六月八日には佐々木の意を受けた佐藤重樹及び沢辺文徳が、平成二年一〇月一二日には佐々木本人がそれぞれ学園桜井ホテル内にいたと主張しており、これに沿った証拠もあるが、仮に佐々木らが両日とも学園桜井ホテル内にいたとしても、売主として行動をしたのは原告であって、佐々木は売主としてなんら松本機械と交渉等をしておらず、残代金も受け取っていないばかりか、松本機械に紹介すらされていないことは原告の認めるところであることからすると、佐々木が売主であるということは不自然である。

(3) さらに、原告は、原告から松本機械に対する譲渡の話を進めていたが、それ以前に、本件二年分土地をすでに佐々木に一坪当たり一七万円で譲渡する話をしていたため、佐々木のいうとおりにせざるを得なくなり、まず佐々木に譲渡した後、佐々木から松本機械に譲渡することになったと主張しているが、右主張は、原告において、松本機械との間で本件二年分土地の売買について交渉をしたことは全くなかった等という審査請求の段階における原告の主張(乙第五号証参照)と全く異なるものであり、弁論の全趣旨からしても、原告が主張する事実を認めることは困難である。

2  本件念書について

(一) 不動産売買において、不動産登記簿上の名義が売主の名義であるかどうかということは、買主にとって非常な関心事であるところ、前記認定のとおり、松本機械は、本件二年分土地の不動産登記簿上の名義が本件二年分土地旧地主らのものであったことに不安を抱き、名義が確実に松本機械に移転するよう、本件二年分土地第一契約書以外にあえて本件念書の提出を求めたのであるから、本件二年分土地の売買において、本件念書の重要性は大きいといわなければならない。

(二) この点、原告は、本件念書の名義が原告と冨田になっている趣旨は、冨田は本件二年分土地旧地主らから原告への売買につき、原告は原告から最終売主への売買につき責任を負うということであると主張しているが、仮に原告が最終売主への売買について責任を負ったとしても、松本機械の最大の関心事である自らへの名義の移転については何ら責任を負っていないのであるから、そのような趣旨の念書を松本機械が要求したとは通常考え難い。また、原告は、最終売主は後日差替え予定の契約書により名義移転の義務を負うから念書の必要性はないとも主張しているが、本件二年分土地第一契約書以外にあえて本件念書を要求した松本機械が、未だ作成もされていない本件二年分土地第二契約書を前提として最終売主には念書を要求しなかったというのは、不自然といわざるを得ない。

(三) したがって、松本機械は、本件二年分土地の売主が原告であるということを前提とした上で、原告に対し不動産登記名義の移転を確実にするためにあえて念書の提出を求めたものと認められ、このことは、原告が本件二年分土地の売主であったことを裏付けるものであるということができる。

3  本件有馬漁具名義口座について

(一) 前記認定のとおり、本件二年分土地の残代金のうち、保証小切手は、つくば銀行学園支店の本件有馬漁具名義口座で取り立てられたものであるところ、乙第二一号証によれば、本件有馬漁具名義口座は、平成二年六月七日に開設されて以降、平成二年一〇月一七日に右取立分一億二二六三万八〇〇〇円が入金され、翌一八日にはそのうちの五〇〇〇万円が、翌々日には七二六四万八〇〇〇円でそれぞれ引き出された以外には、預金利息分の入金以外出金も入金もなされていないことが認められる。

(二) ところで、有馬漁具は、つり具の販売業等を目的とする会社であるが、平成元年二月六日、銀行取引停止処分を受けており、本件有馬漁具名義口座が開設された当時、すでに事実上倒産していたものである(乙第三一、第三二号証)。そこで、本件有馬漁具名義口座を誰が開設し管理していたかが問題となるが、口座を開設した際に作成された普通預金新規申込書(乙第二六号証)及び普通預金印鑑届(乙第二七号証)の「お勤め先、またはご職業」欄には、「(桜井)51-3011」と記載されており、右電話番号は学園桜井ホテルの電話番号と一致すること、平成二年一〇月一八日に五〇〇〇万円を出金する際に作成された普通預金支払請求書(乙第二四号証)の「本件確認表」中の「確認方法」欄には、前述のとおりそれまで有馬漁具は同支店において右保証小切手の取立しかしていなかったにもかかわらず、「既往取引実績有り」と記載されていること、その一方、原告は同支店において口座を開設するなど従前から取引関係にあったこと(乙第二八、第二九号証)がそれぞれ認められることからすると、本件有馬漁具名義口座を開設し管理していたのは、原告であると推認することができ、このことも、原告が本件二年分土地の売主であったことを裏付けるものである。

(三) この点、原告は、本件有馬漁具名義口座の存在を知らず、口座を開設したのは佐々木であると主張し、これに沿った甲第一〇号証(佐々木の証明書)、第一一号証の一(佐々木の陳述書)、第一八号証(原告の陳述書)、証人佐々木の証言及び原告本人の供述が存在する。しかし、これらは、それら相互間で一貫しておらず曖昧である上、これらを裏付けるに足りる客観的証拠が存在しないことからすると、これをにわかに採用することはできない。とりわけ、乙第二四号証の「確認方法」欄に「桜井」の名前及び学園桜井ホテルの電話番号が記載されていることにつき、証人佐々木は、自分が学園桜井ホテルへ麻雀をするために行っていたことから、桜井ホテルの電話番号を記載させたと証言しているが、もっぱら麻雀をするために使用していたにすぎない学園桜井ホテルを銀行からの連絡先として記載することははなはだ不自然であるといわざるを得ず、証人佐々木の右証言を採用することはできない。

4  以上のとおりであって、原告の前記主張は採用し難く、結局、前示のように、本件二年分土地第二契約書は存在するものの、本件二年分土地の売主は原告であったといわざるを得ない。

二  争点2について

乙第三八号証によれば、本件二年分土地のうちの一部の土地につき造成工事(以下「本件造成工事」という。)が行われたことが認められるところ、原告は、本件造成工事にかかった費用が二四五〇万円であり、これを本件造成工事を行った有限会社つくば住建(以下「つくば住建」という。)に支払ったと主張し、これに沿った甲第一八号証(原告の陳述書)、乙第一号証の五(領収書)、証人冨田の証言、原告本人の供述がある。しかしながら、証人冨田の証言はそれ自体矛盾しかつ曖昧であることから、到底採用することはできない。また、原告が本件二年分土地を取得する数年前の造成費用を原告が負担することは不自然である上、原告が本件二年分土地旧地主らに代わって本件造成工事費用を支払う約束をしたことを示す客観的証拠が存在しないこと、本件二年分土地を取得した後になって二四五〇万円もの造成費用を請求されたにもかかわらず、なんら裏付けとなる客観的な資料もなくそのままつくば住建の言い値を支払うということは通常考えがたいことからすると、甲第一八号証及び原告本人の供述もにわかに採用することはできない。そして、乙第三八号証中には本件造成工事をつくば住建が行った旨の記載がない上(乙第三九号証参照)、つくば住建の本店所在地は茨城県取手市であり(乙第三六号証)、乙第一号証の五に記載された住所地にはつくば住建の商業登記簿は存在せず(乙第三三号証)、かつ、つくば住建の代表者とは現在連絡が取れないこと(証人冨田の証言、原告本人の供述)からすると、乙第一号証の五も直ちに採用することは困難である。

したがって、結局、原告からつくば住建に対し二四五〇万円の本件造成工事代金を支払ったことを裏付ける証拠はないことから、右支払はなかったといわざるを得ない。

三  争点3について

1  原告は、本件二年分土地の取得に要した学園桜井ホテルからの借入金及び借入利息は、別表三のとおりであり、そのうち借入利息分の弁済金一六〇万円が本件二年分土地の取得費に該当すると主張している。

2  ところで、土地を取得するために借り入れられた借入金の支払利息が取得費といえるためには、当該借入金が土地の取得代金に充てるためであると特定され、かつ、土地の取得と借入金の発生との間に相当因果関係があることを要するものと解される。

3  しかしながら、原告は、審査請求の段階では別表三以外にさらに二一五五万九〇〇〇円の借入れをしていたと主張し(飯泉英二に対する支払のため二〇〇〇万円、塚田茂に対する支払のために九〇万円、片見春吉に対する支払のために六五万九〇〇〇円、乙第五号証。)、また、本件訴訟では平成元年から平成二年にかけて発生した会社からの借入金総額に対し一定率を乗じて算出したと主張していたにもかかわらず、本件訴訟の最終段階になって別表三のとおり主張するに至っており、その主張に変遷が見られる。また、甲第一八号証(原告の陳述書)及び原告本人の供述中には、原告が学園桜井ホテルから金員を借り受けたとの部分があるものの、その内容は極めて曖昧である。この点につき、原告は、原告の主張する借入金と借入利息との合計額が二九二五万四六六三円である一方、本件二年分土地の手付金二九〇〇万円が学園桜井ホテルの普通預金口座で取り立てられ入金されており(争いのない事実等1(三))、両者はほぼ一致することから、右手付金は学園桜井ホテルから原告への借入金及び借入利息への弁済金として使われたのであって、このことから原告主張の借入金及び借入利息が存在していたと主張するようである。しかし、前述のとおり、そもそも原告は学園桜井ホテルからの借入金が四九一七万九〇〇〇円、借入利息が五六〇万円(合計五四七七万九〇〇〇円)であると主張していたことからすると、右事実が直ちに原告の主張を裏付けるものであるということはできない。また、原告の主張する支払利息の額と学園桜井ホテルから原告宛に渡された領収書(乙第一号証の六)記載の額とが一致しないことも不自然である。以上のことからすると、結局、原告主張の借入利息の支払はなかったといわざるを得ず、これを取得費として控除することはできない。

四  争点4について

1  争いのない事実等及び証拠により認められる事実は、以下のとおりである。

(一) 原告は、本件二年分土地に続き、松本機械へ転売するために、本件三年分土地のうち、別紙物件目録二記載一の土地を平成二年五月二六日に、同目録記載の土地を同年六月一八日にそれぞれ取得した(なお、同目録記載二の土地は、その後平成三年四月一〇日に取得した。)(争いのない事実等2(一))。

(二) 原告は、別紙物件目録二記載一及び三の各土地を取得したことから、平成二年八月三一日、中泉を介し、松本機械に対し、右各土地を取得してもらいたい旨伝えた(乙第四一号証)。

(三) 冨田は、平成三年三月二九日、中泉を介し、松本機械に対し、同目録記載二の土地につき現在買上げ交渉中であること等について伝えた(乙第四五号証)。

(四) 松本機械は、平成三年八月八日、中泉に対し、本件三年分土地の地価の妥当性等について調査を依頼した(乙第四六号証)。

これに対し、中泉は、同月一二日、松本機械に対し、原告が本件三年分土地を本件二年分土地の契約と同様の価額で契約してもらいたいとの意向を有していること等を連絡した(乙第四七号証)。

(五) 原告と松本機械は、平成三年一二月一八日、本件三年分土地につき、売主を原告、買主を松本機械、売買代金を一六七〇万円とする内容の本件三年分土地第一契約書を作成した(争いのない事実等2(三))。

(六) 松本機械は、本件三年分土地の売主は原告であると認識しており、つくば住建についてはその名前を知らなかったところ、原告から、本件三年分土地第一契約書を作成した後、本件三年分土地第一契約書を、売主をつくば住建とする内容の本件三年分土地第二契約書に差し替えてほしいと依頼され、これを了承した(争いのない事実等2(四)、乙第八号証、第一三号証)。

(七) 松本機械は、本件三年分土地のうち、別紙物件目録二記載一及び三の土地については、平成三年一二月二一日に、同目録記載二の土地については、平成四年一月一三日に、それぞれ平成三年一二月一八日売買を原因として、片見章、飯泉孝明及び片見春吉から所有権移転登記を経由した(争いのない事実等2(五))。

2  右認定事実のとおり、本件三年分土地の売買に関しても、契約の前段階から契約の締結に至るまで、一貫して原告が売主として行動しており、かつ、松本機械も原告が売主であると認識していたことからすると、松本機械に対する本件三年分土地の売主は、原告であると認めることができる。

3  これに対し、原告は、本件造成工事に関する未払代金七〇〇万円をつくば住建に取得させるために本件三年分土地をつくば住建に譲渡したと主張し、その旨の本件三年分土地第二契約書(乙第二号証の三)が存在する。

しかしながら、前述のとおり、本件造成工事代金二四五〇万円を原告がつくば住建に対し支払っていないと認められること、本件三年分土地売買に関して原告が一貫して売主として行動しており、つくば住建の代理人ないし使者であったと認めることもできないこと、原告自身、本件三年分土地売買は原告と松本機械との間のものであった旨供述していること、中泉も本件三年分土地第二契約書を見るまでつくば住建が本件三年分土地売買に関与していたことを知らなかったこと(乙第一二号証)からすると、原告の右主張は採用し難く、結局、前示のように本件三年分土地を松本機械に譲渡したのは原告であったといわざるを得ない。

五  本件二年分各処分及び本件三年分各処分の適法性

1  以上の認定事実からすると、平成二年分の分離短期譲渡所得の金額は、被告が認定した分離短期譲渡所得の金額(裁決によって一部取消後のもの)を上回るものであり、平成三年分の分離短期譲渡所得の金額は、被告が認定した分離短期譲渡所得の金額と同額であるから、被告の行った各更正処分はいずれも適法である。

2  また、前記認定のとおり、原告は、まず、本件二年分土地を松本機械に対して三億六八万五〇〇〇円で譲渡したにもかかわらず、有馬漁具に対して一億四六〇四万七〇〇〇円で譲渡したとする虚偽の契約書を作成して確定申告書に添付し、また、つくば住建に対して二四五〇万円の造成費を支払ったと偽りその旨の領収書を確定申告書に添付し、これに基づき平成二年分の分離短期譲渡所得の金額を過少に記載した確定申告書を被告に対して提出した。そしてつぎに、原告は、本件三年分土地を松本機械に対して一六七〇万円で譲渡したにもかかわらず、つくば住建に対し九六九万円で譲渡したとする虚偽の契約書を作成して確定申告書に添付し、これに基づき平成三年分の分離短期譲渡所得の金額を過少に記載した確定申告書を被告に対して提出した。

そうすると、原告のこれらの行為は、国税通則法六八条一項の「仮装、隠ぺい」に該当するということができる。そして、これを元に算定される重加算税の額は、平成二年分については被告が行った重加算税賦課決定処分の額を上回り、平成三年分についてはこれと同額であるから、被告の行った各重加算税賦課決定処分はいずれも適法である。

3  さらに、前記認定のとおり、学園桜井ホテルに対する支払利息を本件二年分土地の取得費として控除することはできないことから、これを元に算定された過少申告加算税の額は、被告の行った過少申告加算税賦課決定処分(裁決によって一部取消後のもの)を上回るものであるから、被告の行った過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

第四結論

よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 矢﨑正彦 裁判官 坂野征四郎 裁判官 松下貴彦)

物件目録一

一 筑波郡谷和原村台字明神東二四一番一

雑種地 一二六八平方メートル

二 筑波郡谷和原村台字明神東二四二番

雑種地 二九四平方メートル

三 筑波郡谷和原村台字明神東二四三番

雑種地 四二六平方メートル

四 筑波郡谷和原村台字明神東二四六番

雑種地 二八七平方メートル

五 筑波郡谷和原村台字明神東二四七番ロ

雑種地 一七五平方メートル

六 筑波郡谷和原村福岡字鎮守東一八九七番

雑種地 七二平方メートル

七 筑波郡谷和原村福岡字鎮守東一八九八番

雑種地 九九平方メートル

物件目録二

一 筑波郡谷和原村福岡字鎮守東一八九三番三

雑種地 九〇平方メートル

二 筑波郡谷和原村福岡字鎮守東一八九四番三

雑種地 五四平方メートル

三 筑波郡谷和原村福岡字鎮守東一八九六番三

雑種地 二四平方メートル

別表一

本件課税処分の経緯(平成二年分)

<省略>

別表二

本件課税処分の経緯(平成三年分)

<省略>

別表三

<省略>

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